高田松原・津波・防潮堤 (1)

 ◯多くの人びとの命を奪った津波災害の教訓
 ◯新しい防潮堤の位置・高さ・幅
 ◯市民のシンボル高田松原の白砂青松の再生
 狭い平地という制約条件の中で、この3つをどのように組み入れて街を再生するのか。
 震災後の陸前高田は、とても困難で重い課題を背負うことになりました。

 「奇跡の一本松」から少し離れた場所に厳然と横たわっている難問を少しでも理解したいと思い、7月上旬の日曜日に高田松原を訪れました。


 新しい防潮堤の建設予定地でシャッターを押しながら、
 「巨大な人工物によって、海や高田松原が、人々の暮らしから隔離されてしまい、よそよそしい存在になってしまわないか」
 「命を守るためには仕方ないのか」
 「新しい防潮堤で命は守れるのか」
 「白砂青松の景観はなくなってしまうのか」
 「防潮堤の計画に市民の意見を取り入れることは、復興の妨げになるのか」
という疑問が頭をよぎりました。 

 防潮堤の工事は始まってしまいますが、今からでもできることはたくさんあるのではないか。そう考えながら、歩いていきました。


 津波で家族を亡くされたお二人が、私たちを案内してくださいました。
 お一人の方は、

「震災後、ここを訪れるのは初めて。今までは、見たくないと思っていたけれど、誰かと一緒なら見ることができるのでは、と思って.....」
 「高田松原は、親に連れられて海水浴をしたり、デートして告白したり、子供と歌いながら散歩したり……。人生そのもの」
と小さな声でおっしゃっていました。


 陸前高田には現在も多くの行方不明者がおり、ご家族は、「古川沼のあたりを捜索してほしい」と強く要望していることを知りました。
 「鎮魂」という言葉が空しく響いている人もまだ大勢いるのだと感じました。

 市民の方々にとって、高田松原は、「人生そのもの」だったけど、震災後は「見たくない」と思ってたこと、
 天然湖・古川沼も、いまだに「捜索」の対象であること、
 心のなかにたくさんの闇を抱えながら、防潮堤の計画や復興計画がつくられていったこと、
 陸前高田を、そして高田松原を語る上で忘れてはならないことを教えていただきました。

 <傷ついた弱き人間(主体)>と<独り歩きする巨大な人工物>

 これが高田松原を理解するためのキーワードだと思いました。


 「松原の写真、撮っていいですか」。そうお聞きしてから、と思いましたが、ゆっくりゆっくりと歩いていらっしゃったので、お聞きしないことにしました。



 撮り方が悪くて申し訳ありませんが、画像をダブルクリックすると、オリジナルサイズでご覧になれます(赤い矢印を入れたもの以外)。
 震災前と直後の高田松原の写真は、(有)日本環境グリーンのHPをご覧参照ください。

 「奇跡の一本松」のモニュメントは、大勢の観光客で賑わっていました。

 世界中の心ある方々からの寄付によって建てられた一本松モニュメントの是非は、よそ者が評論家的に論じるべきではないと私は思いますが、
 ただ、この「奇跡の一本松」モニュメントを眺めていると、
 「高田松原は、この一本松だけを残して、すべて失われてしまった」
 「高田松原は、ゼロから新規に造成し直さなければならない」
といった「0か1か」の紋切り型の固定観念が醸成されてしまうのではないか、
 ここに「海と陸との間の生態系」が今もなお存在し続けていることを見失ってしまうのではないか、
と、とても危惧いたします。

 道の駅・タピック45の周辺。


 赤い矢印の箇所には、「T.P.=13.70」と書いてあります。
 ここまで津波が到達したことを表しています。

※T.P.とは、全国の標高の基準となる海水面の高さ。東京湾の平均潮位をもとに定められており、「東京湾中等潮位」とも呼ばれます。

 建設中の防潮堤(第2線堤)の高さは「T.P.+12.5m」。
 どこかに、防潮堤の高さを示すポールが立っているようですが、見当たりません。

 周囲をよく探してみると、ずっと向こうに立っていました。
 これでは、市民が防潮堤の高さを「実感」することは難しいでしょう。
 赤い矢印のところが、高さ12.5メートルを示す表示板です。
 2013年3月にようやく設置されました。

 ちなみに、震災前の防潮堤の高さは、第2線堤が5.5メートル、第1線堤が3メートル。


 道の駅タピック45の上から撮影。

 赤い矢印の先がポールの位置と高さを示しています。



 松原大橋のほうに進みます。






【参考1】 防潮堤の事業計画

岩手県「高田地区海岸災害復旧事業 事業概要」から転載します。

 震災前の高田松原と防潮堤の位置です。

 逆向きにしてみます。

 上の図は今回の事業計画です。



 震災後の航空写真に今回の計画を落とし込んだものです。
(出所) 岩手県「河川・海岸構造物の復旧等における環境・景観に向けた基本的な考え方(案)の中間とりまとめ」



 横断図です。
(出所)岩手県「高田地区海岸災害復旧事業 事業概要」




 盛り土や高台移転を考慮した横断図です。
 旧市街地からは、海も高田松原も見えなくなるようです。
(出所)陸前高田市震災復興計画[概要版]


【参考2】 防潮堤の高さ
 岩手県津波防災技術専門委員会
 陸前高田の防潮堤の高さについては、2011年7月4日開催の第4回委員会で検討されていますが、「議事録」を見ると、箇条書きの意見が列挙されているのみです。以下、第4回の議事録を引用します。

 「議論において、委員から以下のような意見が出されました。
○整備目標達成の時期を明示すべき
○目標を完全に達成するまでには期間を要すると思うが、一定程度の安全度を確保することは早急な課題であり、その一定程度の安全度をいつまでに、どの高さで確保するかを住民に公表すれば、生活設計ができるのではないか。
○地元市町村は「守りたい地域」「守れない地域」を指定すれば、対策の検討もしやすいのではないか。
○対策手法の議論の際には、概算費用を明示すべき。
○経済活動、観光(景観)等も考慮し、高すぎる防潮堤は望ましくないのではないか。
○地理的状況によるが、もっと避難を優先させた対策を検討すべきではないか。
○高台移転の際に安易に地盤を嵩上げすると、土砂災害の危険性もあるので注意が必要
○集団移転を実施する際には、区画整理の手法を基準として等価交換が良いのではないか。
宮城県等と調整を図り、安全度は平等に扱うべき
○国は『どこまで面倒を見るか』というコンセンサスを示すべき。」


 防潮堤の高さの問題は、その後の地元での街づくりの議論を大きく左右した問題ですし、いかにして市民の生命・財産を守るのかに関わる重大な問題ですので、岩手県は、少なくとも議論の脈絡がわかるように、今からでも、市民に情報公開すべきではないかと私は考えます。



 「岩手県沿岸における海岸堤防高さの設定について」(2011年9月26日 第1回公表、2011年10月20日 第2回公表)
 陸前高田については、第一回(9/26)時に、「12.5メートル」と公表されました。
 公表資料には「事業実施にあたっては、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性、施工性、公衆の利用等を総合的に考慮して堤防高を設定すること」とあります。

 「岩手県沿岸における津波浸水シミュレーション等の公表について」(2011年12月27日)


【参考3】 環境・景観への配慮
 岩手県河川・海岸構造物の復旧等における環境・景観検討委員会
 防潮堤の高さが決まった後、2011年11月から翌12年9月まで、防潮堤や水門と環境・景観との調和について議論されています。
 この委員会の設置目的は、「大規模な河川・海岸構造物の復旧等における環境・景観に係る検討を一体的に行い、計画から施工まで一貫して自然環境との共生及び地域の特性を生かした良好な景観形成の保全・創出に寄与すること」です。
 委員会の進め方は、国土交通省が2011年11月に策定した「河川・海岸構造物の復旧における景観配慮の手引き」 (こちらにその手引きの『別冊』として、陸前高田における「配慮例」が掲げられています)の内容を基本としつつ、各地域の特性やまちづくり計画等を踏まえ検討を進めるというものです。
 陸前高田市の海岸および気仙川は、「砂浜海岸」のモデル地区として検討が進められました。

 
国交省の「手引き」は、そのタイトルにあるとおり、「景観」への配慮に多くのページがさかれ、「環境」への配慮に関しては、引堤の手法による生態系への配慮については指摘されています。
 この「環境への配慮」の問題について、防潮堤の設置者である岩手県がどのように考えるか、陸前高田市が策定する復興計画(土地利用計画)の内容とどのように調整するか等が、委員会での議論の焦点になっています。


 「岩手県河川・海岸構造物の復旧等における環境・景観に向けた基本的な考え方(案)の中間とりまとめ]」(2012年3月7日)
 上の案で、環境配慮についての基本的な考え方を抜粋すると、下記の通りです。

(出所)「岩手県河川・海岸構造物の復旧等における環境・景観に向けた基本的な考え方(案)」。陸前高田に関する検討結果は、「モデル地区検討資料(4地区分)」の中にあります。


 議事録にある専門家の意見を読む限りでは、今回の防潮堤の計画では高田松原の白砂青松を再生していくことは難しく、そこで、県の委員会の中では、「環境への配慮」の手法として「引堤」(防潮堤を内陸側に引いて建設する)が検討されますが、市側の復興計画(土地利用)との折り合いがつかず、現位置での建設を容認せざるをえない、という話になったとの印象を持ちました。


【参考4】 震災復興祈念公園の構想
 岩手県陸前高田市は、2012年7月、高田松原地区における震災復興祈念公園の整備に向け、公園のコンセプトなどのあり方について検討する「高田松原地区震災復興祈念公園構想会議」を設置し、同会議や地元代表との意見交換会などを開催してきました。

 「高田松原地区震災復興祈念公園のあり方に関する提言 (2013年3月8日)」(岩手県)
 「提言」の中にある「三陸の歴史的風土と自然環境の再生」のコンセプトは下記の通りです。

(出所) 高田松原地区震災復興祈念公園の役割・機能 (参考資料2)


 防潮堤や水門の事業計画が固まってしまった後、どのようにして、提言のコンセプトを実現させていくのでしょうか。

 巨大なコンクリートの構造物が「海と陸との間の生態系」を遮断・破壊することを既に是認した上でなお掲げられている「自然環境の再生」「自然との共生」「エコシステム」とは、いったいどのような内容なのでしょうか。

 今、陸前高田はとても難しい問題に直面していると思いました。

 今できることはないのでしょうか。



(出所)陸前高田市震災復興計画
 

 例えば、工事のない日曜日に
 市民向けの現地見学会
などはどうでしょうか。


(続く)