三陸沿岸の防潮堤・水門工事をどう考えるか

 今日の3回生ゼミでは、12月11日の報告会に向けて、「復興工事による漁業被害」について議論をしました。

 復興工事によって、「豊穣の海」や「海と陸との間の生態系」が壊され、漁業や観光業などの生業の復興ができなくなってしまうのではないか
という、難しい問題です。

 この問題を卒業論文で扱う学生もいるので、着眼点と参考資料をアップしておきます。



●海岸法と岩手県「海岸保全基本計画」
 まずは、最近改定された岩手県三陸南沿岸海岸保全基本計画」](H25年9月27日告示)を抜粋し、当該地域の防潮堤・水門の設置計画を確認しましょう。
(陸前高田市の一部地域のみ掲載)


(出所)岩手県三陸南沿岸海岸保全基本計画」付図

 上の凡例の印が示しているとおり、改正海岸法にもとづく「海岸保全基本計画」では、「防護」と並んで「環境」や「利用」が「海岸で特に重要な観点」です。
 それゆえ、防潮堤の設置者であり、海岸保全基本計画の策定者である岩手県は、防潮堤の設計・施工にあたって、どのように「環境」に配慮すべきかについて住民の意見を聴いたり、どのように配慮したのかを住民に説明すべきだと考えます。


 改正海岸法では、「関係海岸管理者は、前項の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、あらかじめ公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。」(第2条の5)とされています。
 「関係住民の意見を反映させるために必要な措置」は、「必要があると認めるとき」という条件が付けられています。しかし、ここから直ちに「住民の意見を反映させなくてもよい」という結論を導いてしまうのは、改正海岸法の制定の背景や趣旨を考慮すると、貧しい法解釈だと考えます。
 もちろん、意見を反映させようとする住民側の主体的努力も大前提です。


 今回改定された岩手県の「海岸保全基本計画」の「計画策定・改定の考え方」においても、以下のように、記されています。

 「海岸法においては、総合的な視野に立った海岸の管理を行うため、"災害からの海岸の防護(防災)"のみならず、"海岸環境の整備と保全"及び"公衆の適正な利用"が法目的に追加され、防災・環境・利用の3つの面でバランスのとれた海岸管理が求められている。
 また、都道府県では、国が定めた"海岸保全基本方針"に基づき、海岸の保全に関する基本的な方向性を明らかにするとともに、学識経験者や市町村長地域住民などの意見を聴き、地域の意見を反映した"海岸保全基本計画"を沿岸毎に定めることになっている。」(岩手県三陸南沿岸海岸保全基本計画」p.1)



 今回の基本計画改定にあたり、岩手県は、今年5月〜6月にパブリックコメントを実施しています。こちらを参照。「海岸環境と整備と保全に関する事項」については、下記のような意見が提出されています。希少生物に関する意見が多いですが、どれも重要な意見だと思いますので、転載します。

 ・「堤防断面は土台の幅が大きく広がることに伴い既存の海浜が消滅することが予測され、特に希少動植物が確認された箇所では海浜に手を加えない工法、断面(場合によってはセットバック等)での実施について検討するよう要望します。」
 ・「希少動植物は一旦失われると回復が特に難しいことから、海岸環境の状況把握をより的確に行うため、専門家や自然環境に精通している有識者を活用しながら、希少種の保全に向けた体制、仕組みを確立して事業を実施するよう要望します。」

 ・「数ヶ所の予定地に、きわめて希少度の高い植物数種が生育していますが、工事によって消失することが予想されます。県内では他に生育地が存在しないか、ごく限られた個体数しかないため、これらの場所で消失すれば、岩手県全体で当該種が絶滅する可能性がきわめて高くなります。そこで、工事着手の前にこれらの種の個体を移植し、工事期間中は栽培によって保全を図る緊急避難措置を実施させて下さい。」

 ・「(海と陸の連続性を失わないようにすること) 海と陸の移行帯(エコトーン)である海岸は、そもそも撹乱と回復を繰り返す動的な環境です。それが生物多様性をつくりだし、その恵みである生態系サービスを受けて私達の生活は成り立っています。海と陸との連続性を失うことは、取り返しのつかない大きな禍根を将来世代に残します。堤防等が、強固で巨大なものほど、海と陸を断絶します。今回の計画(案)は、数十年から百数十年に一度程度の比較的発生頻度の高い津波への対処を目的にしていますが、その手法を規模の大きな構造物である堤防に依存しているため、エコトーンを分断することとなっています。海と陸との連続性が担保される計画にすべきです。昨年度の調査から海岸の自然環境は物理的に消失したところもありますが、●●●、●●●●●、●●●●などの絶滅危惧種を含む群落が残存している学術的に貴重な群落が見られます。また、三陸海岸は植物の南限や北限の種類が共存する地域であり、クロマツ林下や自然海岸には絶滅危惧種が生育していなくても、生物多様性の高い地域が見られます。こうした地域は学術的に貴重であるばかりでなく、三陸の復興に際して大きな役割を担う自然資源としても活用できる可能性があり、防潮堤の建設で破壊すべきではありません。」

 ・「(地域の自然を熟知している市民の意見を取り入れること)・・・東日本大震災からの復興に資する海岸保全計画にするためには、地域の自然環境を熟知している市民、専門家らを含めた合意形成が重要です。十分な住民合意のない工事は、地域で培われた自然資源とのつながりや自然への畏敬の念など、地域社会の形成の根源をも失う恐れがあり、今後のまちづくりが難しくなる可能性も生じます。震災からの復興において、海岸のあり方はたいへん重要なことですが、説明会などはあっても合意形成の場としては不十分であり、また、多くの復興計画が同時進行している中で、すべての地域で海岸のあり方や堤防について十分に理解され、協議ができているとは思えません。工事中や工事後のモニタリング、それらを踏まえた順応的管理のプロセスにも、市民や専門家の関与や協力が重要であると考えます。」

・「(防潮堤の位置をできるだけ内陸側にし、海側の面積を十分に確保すること) 砂浜は減少しましたが、津波によって持ち去られた海砂は、また砂浜に打ち上がり、風によって内陸側に運ばれ、砂浜を形成していく可能性があると考えられます。その際、防潮堤が海側に近くなると、砂浜の成長を押しとどめてしまうことになります。また、今回の震災で地盤沈下したところも多く、そのような場所では特に砂浜の面積や幅が減少しているところが多くあります。以前の位置に防潮堤を戻した場合、砂浜が減少し、これまでの景観や砂浜特有の生物の生息環境としての価値が低くなってしまいます。また、以前の津波災害後に作られた防潮堤によって、砂浜の面積が小さくなったところも多くあります。以上のような理由で、防潮堤の位置を震災前の場所にするのではなく、より内陸側に設置することで、以前のような砂浜海岸が期待でき、地域の景観やレクリエーションの場、また、多くの生物が生息できる環境、ひいては豊かな漁場へ繋がっていくことを考えてはいかがでしょうか。すべての場所は難しくとも、例えば希少な生物や多くの生物が存在する場所、レクリエーションとして重要となる場所だけでも、このようなことを行っていく必要があると思います。」

・「(防潮堤計画を立てる前に充分な生態系調査を行うこと) 岩手県において砂浜は以前から少なく、現在残されている砂浜はそもそも貴重なものです。たとえ希少種が存在していなくても、ある程度の砂浜性植物がまとまって存在しているという場所は、すなわち貴重な植生であると言えます。そのような視点に立ち、防潮堤の計画があるところを早急に調査し、海浜性植物の存在がある程度認められるような場所においては、できるだけ影響を少なくするような計画を立案すべきではないでしょうか。もちろん絶滅危惧種や貴重な植生、希少生物がいる場所においては、防潮堤の位置を変更することも考えるなど、最大限配慮する行動を取るべきです。」

・「(地域住民や地域自治体、専門家などへの情報公開および合意形成への参画) 海岸線の保全計画を立案するにあたって、地域住民はもちろんのこと地域自治体、研究者など多様なセクションの方に参加していただき、海岸線のあり方について議論し、合意形成をしていくべきではないでしょうか。今回の防潮堤の位置・高さについては、地域住民にも様々な意見がありながら、案として作られたものが成案となっているケースが多いと聞いています。もちろん、復興へのスピードを問われているところでの合意形成は難しい部分もあろうかとは思いますが、急ぐあまりに、海岸の景観や生態系など取り返しのつかない事態になってしまわないとも限りません。十分に情報公開を行い、広く意見を求め、合意形成を測るべきではないでしょうか。・・・・」


 これらの意見に対する県の回答は、「ご意見は、基本計画の文章に含まれています」というものが多いので、岩手県「海岸保全基本計画」にもとづく「施策」の部分を抜粋します。
 「基本計画に含まれている」というのであれば、自らが決定した「基本計画」に従って、そこに掲げられている施策を実施計画化し、適切に粛々と実行に移すべきだと考えます。


(出所)岩手県三陸南沿岸海岸保全基本計画」p.28-29.


 基本計画の「海岸環境の状況把握」に関しては、日本生態学会、植生学会、日本水産学会の3学会が、昨年10月26日、「津波被災地での防潮堤建設にあたっての自然環境への配慮のお願い(申立書)」を連名で発表し、岩手県福島県宮城県の知事宛に提出しています。

 岩手県は、上記のような専門家の力を借りて、「海岸保全基本計画」に掲げる「良好な環境を保護・保全する施策」および「海岸環境の状況把握に関する施策」、「海岸環境の再生・創出に関する施策」を早急に実施すべきだ、と考えます。

 「豊かな地域環境は一度失うと、その回復には長い期間を要する」(岩手県三陸南沿岸海岸保全基本計画」p.28)。



国立公園 
 現在、仮桟橋設置など大規模な工事が進められている高田松原地域は国立公園区域なので、まずは、この問題について、「グリーン復興」を掲げる環境省がどのように考えてきたのかが重要な論点になります。

(出所)三陸復興国立公園のHPより転載

 『三陸復興国立公園 指定書及び公園計画書』によると、陸前高田市は「小友町、気仙町、高田町、広田町及び米崎町の各一部」が「第2種特別地域」に指定されています。「2.地域の概要 (1)景観の特性」の「イ.植生・野生生物」の項に「広田湾には三陸海岸で最大規模のアマモ場が発達し」と記されています。


 三陸復興国立公園のパンフレットの表紙には、以下の言葉があります。


 「(森・里・川・海の)つながりが育む自然こそが、豊かな暮らしの源です」

 「これからも繰り返されるであろう地震津波に備え、自然に配慮し、自然の回復力を活かし、自然とともに歩む復興を進めること、そして、持続可能な地域をつくり、豊かな自然と地域の暮らしを未来に引き継ぐことが、いま、求められています」


 すべてはこの言葉に集約されているのではないでしょうか。

 現在、国立公園内で進められている防潮堤や水門の工事は、「自然に配慮し、自然の回復力を活か」す工事でしょうか、「持続可能な地域をつく」る工事だと言えるのでしょうか、「豊かな自然と地域の暮らしを未来に引き継ぐ」工事だと自信を持って言えるのでしょうか。

 一方で、「(森・里・川・海の)つながりが育む自然こそが豊かな暮らしの源」という三陸沿岸で生まれた環境哲学を掲げながら、他方で、三陸沿岸のリアス式海岸それも国立公園内に、「災害復旧事業」の名のもとに、環境影響評価も行わず、防潮堤や水門を張り巡らすのでしょうか。
 森里海連環学の提唱者たちは、巨大防潮堤の建設に反対しているではありませんか !



 今後の議論の参考のために、「中央環境審議会・自然環境部会」の議事録にリンクを貼っておきます。こちらです。

 議事録を読んで、「グリーン・インフラストラクチャー(緑のインフラ)」※という概念が私たちに突破口を与えてくれるのではないかと思いました。
 「グリーン・インフラストラクチャー」については、
鷲谷いずみ「次世代を守るグリーンインフラストラクチャー」
同『震災後の自然とどうつきあうか』(岩波書店)
を参照。


※ガレキでつくる「緑の防潮堤」のことではありません。言葉は似ていますが。念のため。




 11月13日〜17日に、環境省国際自然保護連合の主催により仙台で開催された「第1回アジア国立公園会議」において、下記の内容を含む「アジア保護地域憲章(仙台憲章)」がとりまとめられました。

 「災害リスクの削減と復興のための保護地域
 2004 年のインド洋津波や2011 年の東日本大震災津波、2013 年のハイエン/ヨランダ台風等で明らかなとおり、アジアでは、自然災害は深刻かつこれまでにない脅威であり、人口増加、都市化や計画性に乏しい開発、不適切な土地利用、気候変動により、自然災害による被害は増加している。

 生態系を活用した災害リスクの削減方策と保護地域は、自然災害のリスクの高い場所における地域の回復能力(レジリエンス)を強化する。こうした先見的なアプローチは、生態系サービスの活用を通じて災害の防止や緩和に貢献する。健全な生態系は、農林水産業や観光業等、地域の生物多様性に根差した産業を維持するものである。

 被災地における自然再生は地域社会の復興に貢献し、自然環境や生態系に対する人々の理解を促す。健全な保護地域制度は、人々や社会の安全性の向上、財産や社会基盤への損害軽減にも役立つものである。」
 この「仙台憲章」は、現実の三陸復興には活かされないのでしょうか。なんのために被災地・東北で国際会議を開催したのでしょうか。



 また、同会議にて発表された「東日本大震災が沿岸地域の自然環境に及ぼした影響に関する調査結果」については、こちら(環境省のプレスリリース)を参照


 環境省生物多様性センター「しおかぜ自然環境情報ログ」はこちら東日本大震災による自然環境の変化を記録・共有するサイトです。