岩手日報の論説「防潮堤と砂浜」

 2月9日付の岩手日報。今まさに判断が求められている重要なテーマについての地元新聞社による渾身の論説。内在的な問題提起。多くの方々に読んでいただきたいです。

 以下、転載します。


防潮堤と砂浜 漁業再生見据えた選択(2014年2月9日)

 大船渡三陸町の越喜来漁協は、週明けから再建した本事務所で営業を開始する。東日本大震災から2年11カ月。漁業再生の本格化へ向けて活用が期待されるのが、新たに生まれた砂浜だ。

 大震災で同地区の防潮堤の背後地は大きく地盤沈下し、広い砂浜ができた。せっかくできた波打ち際を生かせないか。災害復旧事業は原状復旧が原則だが、地元が県に要望した。

 この結果、県も環境・景観へ考慮し、防潮堤は陸側に最大200メートルセットバックして建設することが決まった。2016年3月の完成に向けて工事が進んでいる。

 防潮堤を動かした原動力の一つは、漁協と北里大の連携だった。以前から共同研究などを進めており、砂浜を守る上でもこの関係が生きた。

 北里大海洋生命科学部は、震災後も越喜来地区で海の生態系調査を続けている。浦浜川の河口付近に砂浜が形成されるに従って、震災直後は見えなかった稚魚が数多く集まり始めた。

 朝日田卓教授は「魚の産卵や成育の場になっている。まさに海のゆりかごである貴重な砂浜を活用しよう」と提言した。

 波打ち際は自然のいけす。アワビやウニなどの増殖や種苗生産のほか、将来的には観光漁場としての可能性も広がり、雇用効果も見込める。

 越喜来漁協は津波で大きな打撃を受けた。漁協の建物は流失。船や定置網はもちろん、養殖施設も失った。中嶋久吉組合長は「漁獲高はまだ、震災前の半分までも届いていない」と語る。

 間もなく3カ統にする定置網を柱に、養殖漁業をどう復活させていくかが鍵だ。これから砂浜を生かすための論議をしていく。

 後継者不足も問題だ。「5年後はどうなっているか」と中嶋組合長を不安を隠さない。生業(なりわい)も復興しないと、漁村から人が消えていくという危機感がある。

 県沿岸部の防潮堤工事は135カ所で予定されている。昨年末現在、このうち88カ所で着工し、20カ所は既に完成した。県は災害復旧事業の期間を5年間と定めている。

 しかし、ここにきて被災地の住民から防潮堤の計画見直しの声が出始めた。県は土地利用の大幅な見直しで「守るべき土地」がなくなった場合を除き、これまでの住民合意に基づいて進める姿勢を崩していない。

 急ぐべきか。立ち止まって考え直すべきか。

 画一的な結論は出しにくいが、防潮堤が守るべき将来のまちや産業の在り方をどうするか、という視点は欠かせない。後悔しない選択のための議論があってもいい。



 長年、越喜来湾で「海のゆりかご・波うちぎわ」を研究されてきた北里大学海洋生命科学部・朝日田教授。
 教授によれば、三陸の波うちぎわは、稚魚の成育場で、まさに「喰う寝るところに住むところ」。天敵も少ない。
この波うちぎわ=成育場の保全と修復を行いながら放流・漁獲をコントロールすることができれば、莫大な費用を要する人工種苗の放流は不要になろう。環境保全にまさる資源増殖事業はない。
(朝日田 卓・井田 齋「海のゆりかご『波うちぎわ』」宮崎信之編『三陸の海と生物〜フィールドサイエンスの新しい展開』サイエンティスト社、2005年、pp.102-124)


 広田湾はどうなのでしょうか。ぜひ調査してほしいと思いました。


 先日、ある漁協関係者も、「おら達はなかなか声をあげにくいので、まず漁業以外の人間が言い出しっぺになってくれるとありがたいのだけど....。そしたら今度は当事者のおら達の番だべ」とおっしゃっていました。

 防潮堤「復旧」工事の多くは県の事業。県の研究機関が県が決定した計画を覆すような調査をしたり、それにもとづいて別の選択肢を示したりすることは、平時でも相当難しいのではないかと推察します。


[追記]
 東海新報2013年7月20日


県による越喜来地区海岸災害復旧工事本格着手
県による越喜来地区海岸災害復旧工事が本格着手されることになり、現地に近い大船渡三陸町越喜来沖田地内で19日、安全祈願祭が行われた。復旧工事は、東日本大震災被災した防潮堤など海岸保全施設を整備するもの。越喜来地区復興への大きな一歩となる事業で、県や地元関係者らが早期完成を祈願した。
 安全祈願祭には、発注者の県や地元の震災復興委員会、漁協、工事を請け負った㈱安藤ハザマ・㈱錢高組・樋下建設㈱特定共同企業体などから約40人が出席。玉ぐしをささげるなど神事で工事の無事を祈った。
 越喜来地区海岸は越喜来湾奥に位置し、背後に市役所支所や小学校、旧三陸町市街地が立地していた。東日本大震災では、津波の直撃を受けた防潮堤が全壊、流失。浦浜川・泊川の水門や人工リーフ、離岸堤なども被災し、市街地が壊滅状態となった。
 管理者の県は国の災害査定を受けたのち、仮防潮堤の工事を行い、被災した防潮堤や水門の復旧に向けて準備を進めてきた。
 復旧工事の内容は、防潮堤工895㍍、突堤工225・2㍍、人工リーフ・離岸堤一式、水門工2基。復旧延長は947・5㍍で、概算工事費は51億円。工期は28年3月15日までとなっている。
 このうち、防潮堤工では堤防高を被災前の7・9㍍から11・5㍍にかさ上げする。震災後、既存の防潮堤が流失した浦浜川水門から南西側の海岸線には新たに砂浜が発生。県は地元の意向を受け、砂浜を生かすよう防潮堤の法線を被災前の海岸線から50㍍ほど陸側に下げる計画だ。