漁業の復興と求人票

 2013年の漁業センサスによれば、東日本大震災や高齢化(昭和一桁世代の引退)の影響で、被災地の漁業経営体の数が激減しています(漁業経営体のほとんどは自営漁業です)。

1. 自営漁業経営体の減少

 表: 漁業経営体数の減少(2008年と2013年、岩手県)

(注1)「廃業等」とは、漁業を廃業、死亡、行方不明、他県へ転居した世帯等をいう。
(注2)「休業等」とは、前回2008年調査時点の漁業経営体のうち、2013年11月の調査時点において、過去1年間における海上作業日数が30日未満のもの及び一時休業のために今回経営体の対象外とされた世帯を含む。
(注3)「2013年漁業経営体数」の中には「新規」(前回2008年調査時点において、海上作業日数が30日未満の世帯等)を含む。
[追記→](注4) 12月25日に農林水産省が発表した漁業センサスの確定値によれば、若干の数字の変更があるようです。今後修正していきます。
(出所)岩手県「2013 年(第13次)漁業センサス 海面漁業経営体調査結果の概要(概数値、岩手県分、平成25年11月1日調査)」2014年8月.

 岩泉町、宮古市陸前高田市、山田町の減少率が高く、また、大槌町宮古市、山田町の廃業率はかなり高いです。


[追記]
 表: 漁業経営体が営んだ漁業種類

(出所) 農林水産省「2013年漁業センサス結果の概要(確定値、平成25年11月1日現在)」2014年12月25日

 上の表で「海面養殖」を見ると、岩手県宮城県も、「ほたてがい養殖」「かき類養殖」の経営体数が激減しています。


 表: 漁業就業者と従事者

(注1)「漁業従事者」とは、満15歳以上で、調査時点で海上作業に従事した者。
(出所) 農林水産省「2013年漁業センサス結果の概要(確定値、平成25年11月1日現在)」2014年12月25日

 上の表を見ると、「自営漁業のみに従事する漁業就業者」は、両県ともに、大幅に減少し、ほぼ半減していまいました。
 他方で、漁協等が管理・運営を行い養殖業等を営む漁業従事者」は、岩手県で400人、宮城県で1300人ほど増加しています。農水省は、国の「がんばる養殖復興支援事業」の活用の結果だ、と分析しています。



2. 国の「がんばる養殖復興支援事業
 「がんばる養殖復興支援事業」は、2011年度第3次補正予算にもとづく国の事業で、震災で壊滅的な被害を受けた養殖業について、共同化による生産の早期再開と経営再建の取組みに対して支援する事業です。
 具体的には、共同化により5年以内の自立を目指し、養殖業の経営再建を図る事業を行う漁協等に対し、生産費(人件費等)、資材費等、必要な経費を国が助成します。赤字が発生した場合には、赤字の10分の9を国が負担します。
 漁協等の事業者は、水揚金額から経費分を国に返還します。
 養殖業は生産期間が長く販売代金を手にするまで時間がかかります。それゆえ、このような、漁師さんに人件費を前渡しでき、かつ3年〜5年の長期にわたる支援策はとても重要です。
 被災した自営漁業経営体が「自立」できるかどうかは、黒字が出るかどうかが決め手になります。黒字がでなければ、国への"借金"返済に終わってしまいます。


 図:がんばる養殖復興支援事業の概要

(出所) 特定非営利活動法人 水産業・漁村活性化推進機構のHPより。


 表 岩手県の「がんばる養殖復興支援事業」の認定団体

(注) 2014年11月25日現在
(出所) 特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構のHPより作成.
 
 岩手県では、493の自営漁業経営体がこの事業に参加して、経営再建に向けて「がんばって」います。
 事業参加経営体数を市町村別に見ると、山田町が151、釜石市が113、大船渡市が107、陸前高田市が58、宮古市が37、大槌町が27です。
 2008年漁業センサスの個人漁業経営体数を分母にして参加割合を見ると、山田町が28%で最も高く、釜石市が14%、大船渡市が12%、陸前高田市が12%、宮古市が4%、大槌町が12%です。2013年漁業センサスで廃業率が43.6%と高かった宮古市の参加率が特に低いと言えます。
 養殖品目別にみると、県全体では、ホタテ養殖が最も多く318経営体、次いでカキ養殖が242経営体です。ホタテ養殖の市町村別の内訳は、山田町が138、釜石市が92、大船渡市が51、陸前高田市が13、宮古市大槌町が12。カキ養殖については、山田町が124、大船渡市が38、宮古市が25、陸前高田市が24、釜石市が21です。
 

3. 岩手県のカキやホタテ貝の生産・販売数量

 では、カキやホタテなどの養殖業は、震災前と比べてどの程度復旧したのでしょうか。

1) カキ
a.殻つきカキ
 図 岩手県の殻つきカキの生産量(トン)

(注)2013年の数値は、概数値であり、今後確定又は訂正される場合がある。(注)2013年の市町村別のデータは未公表。
(出所)農林水産省『漁業・養殖業生産統計年報』、農林水産省「2013年漁業センサス結果の概要(確定値、平成25年11月1日現在)」2014年12月25日

 東日本大震災の前年の2010年には2月にチリ地震津波が発生したため、同年の生産量は大きく落ち込みました。そこで2009年と2013年の岩手県産の数値を比較してみると、2009年の12,743トン→2013年の3,700トンで、29%程度の回復率です。


 図 宮城県の殻つきカキの生産量(トン)

(注) 2013年の市町村別のデータは未公表。
(出所) 農林水産省『漁業・養殖業生産統計年報』

 2009年の49,175トン→2013年の13,000トンで、26%程度の回復率です。



表 築地市場での「殻つきカキ」の取扱数量・金額

(注)「2014年」の数値は、1月〜11月の合計。「2014年(参考)」は、12月も11月と同量の取扱数量・金額があったと仮定した場合の数値。
(出所)東京中央卸売市場

 岩手県産は、2009年の1,269トン→2014年(参考)が502トンで、4割程度の回復率です。宮城県産は、09年の154トン→2014年(参考)が298トンで、震災前の水準を大きく上回っています。

 岩手県産の「殻つきカキ」は、震災前は、シーズン(特に10月〜12月)中では約90%の市場シェアを誇っていました。築地市場での月別の市場シェアを見ると、下記のとおりです。

(注) 2014年は11月末時点。
(出所) 東京中央卸売市場



 宮城県は、従来、販売数量の少なかった殻つきカキの取り組みを強化しています。
下記の記事を参照してください。


 宮城)県漁協がカキのブランド化事業スタート
 県漁協は、これまで量が少なかった県産の殻付きカキのブランド化に取り組む。唐桑(気仙沼市)、長面浦(石巻市)、鳴瀬(東松島市)の3地域のカキを首都圏に売り込み、知名度を上げる。震災で失った販路を回復し、価格の引き上げにもつなげる。
 県産カキはむき身が中心だった。ところが大都市ではここ数年、殻付きのカキを提供するオイスターバーやカキ小屋が人気になっている。殻付きの出荷はむき身に比べ、殻の形や美しさで選別する手間がかかるが、需要と価格が安定しているメリットがある。
 県漁協は「品質はどこにも負けない。飲食店で評価が高まれば、一般消費者にも波及する」(幹部)と判断。殻付きについて、「宮城産」とひとくくりにせず、養殖した地域を前面に出すブランド化を進めることを決めた。
 今回の3地区は、殻付きカキ出荷の実績があることから、ブランド化の対象に選んだ。唐桑は通常よりも1年長い3年かけて育て、大粒なことが特徴。三方が山に囲まれた長面浦は甘みが強い。鳴瀬は身が殻と同じくらい大きくふっくらしている。3地域で成功すれば、他の十数地域にも広げていく考えだ。
 3地区のカキを紹介したポスターやチラシを作ってPRするほか、インターネットを使った仲買人向けの販売専用システムを整備する。1月9日から3月20日には東京・大手町に期間限定のカキ小屋「宮城牡蠣の家」を設け、3地区のカキを味わってもらう。飲料大手のキリングループが、PR費用など2700万円を助成する。
 県漁協によると、カキの生産者は震災で半減して現在は約460人。生産量も4200トンから今季は約1500トンに落ち込んだ。県漁協の小野喜夫理事長は「ブランド化で生産者の意欲が高まれば、担い手育成にもつながる」と期待する。
(加藤裕則)
朝日新聞 2014年12月22日


b.むき身カキ
 表 築地市場での「むき身カキ」の取扱数量・金額・平均価格

(注)「2014年」の数値は、1月〜11月の合計。「2014年(参考)」は、12月も11月と同量の取扱数量・金額があったと仮定した場合の数値。
(出所)東京中央卸売市場

 岩手県産は、2009年の494トン→2014年(参考)が220トンで、45%程度の回復率です。宮城県は、09年が551トン→2014年(参考)が224トンで、41%程度の回復率です。
 また、広島県は、生食用ではなく、加工調理用が主流なのですが、震災後は、広島県の取扱数量や市場シェアが拡大しています。


 宮城県産のむき身・生食用カキ(県漁協による共同販売事業)の動向については、下記の記事を参照。


宮城産カキ 生産量回復依然困難
 宮城県産生食用カキが東日本大震災から4回目の出荷シーズンを迎えた。被災したカキ処理場の整備は計画通りに進んだが、生産者は大幅に減少。震災前の水準まで生産量を回復させるのは難しいという。県漁協は従来の共同販売制度に加え、インターネットによる販売システムを試行するなど販売力強化を目指す。
 気仙沼石巻、塩釜各市で6日、初入札があった。主産地の石巻を含む中部地区は約10トンが出荷され、10キロ当たり平均2万7069円で取引された。昨年より3000円以上高く、県漁協の丹野一雄会長(66)「まずまずの値段」と胸をなで下ろした。
 県漁協によると、今季の生産量見込みは1580トン。昨季の1155トンより3割以上多いが、震災前の3分の1にすぎない。880人いた生産者は460人まで減り、殻むきを担当する女性たちも家を失うなどして多くが浜を離れた。県漁協幹部は「もはや震災前のような生産量は望めないだろう」とため息をつく。
 被災したカキ処理場は、50カ所の再建がほぼ終わった。生産者の減少に比例するように、震災前(約120カ所)の半数以下。それでも養殖施設を増やすなど、少しでも生産量を回復させたいという。
 県漁協は新たな販売方法として、昨季からネットを通じ生産者とカキを仕入れたい飲食店をつなぐ「予約取引」の実証実験に取り組む。生産者の希望価格で販売できるメリットがあり、所得向上に結び付くと期待される。いずれは全体の2割程度まで広げたい考えだ。
河北新報2014年10月7日

2) ホタテガイ

 表 岩手県漁連によるホタテガイ共同販売・取扱数量(トン)

(注)「2014参考」の数値は、上半期(4月〜9月)の数値を2倍にしたもの。
(出所)岩手県漁連、岩手日報2014年11月23日付

 2010年の5646トン→2014年(参考)の3630トンで、64%程度の回復率です。


本県の養殖ホタテ復調 水揚げと金額、前年同期比3倍に
    岩手県の養殖ホタテガイの本年度上半期(4〜9月)の水揚げ量は約1815トンで、前年度同期比3.14倍と東日本大震災以降で最大となった。販売金額も同約3倍の約6億円。震災後に種付けし、ようやく出荷時期を迎えたホタテがそろってきたためだ。ただ震災以降、漁業従事者数は減少しており、さらなる生産量引き上げを図る上で課題となっている。
 綾里漁協(佐々木靖男組合長)は本年度、半成貝から養成したホタテに加え、種苗から育てた貝が出荷時期を迎え、生産量が増加した。
 小石浜養殖組合ホタテ部会の佐々木淳さん(43)は「不安な中、とにかく前だけを向いて進んできたことが養殖再開3年目での復活につながった」と喜びをかみしめた。
 三陸やまだ漁協は、上半期の水揚げ量が235トンで、13年度1年分の約80%に到達。越喜来、唐丹の2組合も今年からホタテの共販を再開し、全体の水揚げ量を底上げした。
 県などによると、復旧予定のホタテやワカメなどの養殖施設は約1万7千台で、8月末時点で97%が整備済み。ただ、この整備台数は廃業する漁師の増加や、これまで予備的に設置されていた施設を整理し実際の必要量を見直したもので、震災前の約2万5千台の6〜7割にとどまる。
・・・中略・・・県水産課振興課の五日市周三総括課長は「生産量の順調な回復は喜ばしい。ホタテ養殖の発展、浜の活力創出のため、新規就業者が参入しやすい環境づくりに市町村や漁協と一体で取り組む」と強調する。
岩手日報2014年11月23日付


 岩手日報の記事から、今年上半期の漁協別の実績を引用すると、
・釜石東部漁協(釜石市)が147トン (前年同期比 4.9倍)
・綾里漁協(大船渡市)が358トン(同3.5倍)
・吉浜漁協(大船渡市)が323トン(同2.4倍)
三陸やまだ漁協(山田町)が235トン
です。

 これらの漁協の多くは、「がんばる養殖復興支援事業」の助成を受けています。

 記事中の「新規就業者が参入しやすい環境づくりに市町村や漁協と一体で取り組む」という指摘は、とても重要だと思います。



 表 築地市場でのホタテ貝の取扱数量・金額・平均価格

(注)「2014年」の数値は、1月〜11月の合計。「2014年(参考)」は、12月も11月と同量の取扱数量・金額があったと仮定した場合の数値。
(出所)東京中央卸売市場




 表 震災前の陸前高田市の漁業の概要

(出所)陸前高田市のHPより転載



 表: 自営漁業の後継者の有無 (2013年、岩手県)

(注)2014年度(参考)は、上半期(4月~9月)の数値を2倍したもの。
(出所) 岩手県「2013 年(第13次)漁業センサス 海面漁業経営体調査結果の概要(概数値、岩手県分、平成25年11月1日調査)」2014年8月.



 表:個人漁業経営体の基幹的従事者の年齢階層 (陸前高田市、2008年と2013年)

(注)単位は経営体数
(出所) 同上

 陸前高田市の自営漁業の経営体数の減少に大きく寄与したのは、「70〜74歳」(105→39)、「60〜64歳」(82→41)、「65〜69歳」(80→46)の階層です。
 コーホート(同期間に出生した集団)の移行という観点で見てみます。例えば、2008年に基幹的従事者が「30〜34歳」の年齢階層であった経営体は、5年後の2013年には「35〜39歳」の年齢階層に移行します。
 では、どれだけの経営体が移行しているかを見ると、2013年の「75歳以上」(08年の70〜74歳と75歳以上)が194→58、「70〜74歳」(08年の65〜69歳)が80→39、「65〜69歳」(08年の60〜64歳)が82→46と、基幹的従事者が高齢者層である経営体において移行率が低いと言えます。
 全体的に見ると、08年の479→13年の252への経営体の減少率マイナス47.4%のうちマイナス28.4%分は、08年に「70〜74歳」(1934年〜1938年生)、「75歳以上」(1933年以前生)だった階層(ほぼ昭和一桁生まれ)の減少によって生じています。
 なお、「45〜49歳」(08年の40〜44歳)階層と「40〜44歳」(08年の35〜39歳)の階層では、わずかですが増加しています。

 陸前高田市の漁業は、震災の影響と、昭和一桁世代の引退とが重なって大幅に縮小したと言えます。
 2013年の252の自営漁業経営体のうち、基幹的従事者が65歳以上の経営体は143で57%を占めています。


 水揚げの動向を見ます。個人漁業経営体252に漁協経営2、共同経営1を加え、合計255の漁業経営体を販売金額別に分類し、25年間の推移を見てみると、下の図のようになります。

 図: 販売金額別にみた漁業経営体数(1988年〜2013年、陸前高田市)

(注)2013年に「販売金額なし」の経営体は3。
(出所) 同上

 「販売金額なし」3を除いた252の経営体のうち、「販売金額100万円未満」の経営体は131で、半数以上を占めています。この層には、アワビ・ウニなど「採貝・採藻」を営む経営体が数多く含まれています。次いで多いのが「販売金額100万円〜300万円未満」の経営体55です。

 漁業メインで家族を養っていくためには、最低限、水揚げ500万円以上、所得300万円以上ないと苦しい、のではないでしょうか。
 この見立てが正しいと仮定して、「販売金額500万円以上」の経営体数を見ると、2003年が174、2008年が161、そして2013年は34に激減してしまいました。漁協経営2、共同経営1を除くと、自営漁業経営体は30だけです。
 陸前高田の漁業経営体は、「漁業だけでは食っていけない」零細で副業的な自営漁業が多数になってしまいました。




 漁業再生、特に地域外からの新規就業の可能性について考えています。

 全国漁業就業者確保育成センターのHPに掲載されている求人票を見ていました。
 魚好き、海好きだけでは到底つとまらず覚悟がいるでしょうが、興味をもつことのできた求人票もありました。

[岩手県]
養殖業 

 研修後、漁協の「組合員になれる制度あり」「組合員になれた際にはウニ・アワビ漁に自ら出漁することもできます」という言葉に惹かれました。
 ヨソ者が漁業権を取得する方法、ウニ・アワビ漁などの共同漁業権だけでなく、カキ養殖など区画漁業権は取得できるのかどうか等々、独立自営への道筋について、もっと詳しく聞いてみたいと思いました。
サンマ棒受網


[宮城県]
近海マグロ延縄

遠洋マグロ延縄

 近畿大学さんの養殖マグロばかりが注目されていますが、遠洋マグロ延縄にも注目していきたいです。
 浜田漁業部(本社は岩手県宮古市)のHPはこちらです。「採用情報」のところには詳しい仕事内容が記載されています。「気になる給料」も! 清福丸のブログはこちらです。どちらも、とても勉強になります!

遠洋カツオ一本釣

大型定置網

 
 今、話題の島根県隠岐海士町こんなふうに定置網漁の漁師さんを募集しています。
 仕事自体は、他県の定置網漁とあまり変わらないと想像しますが、ものすごく魅力を感じてしまうから不思議です。「町ぐるみでUターン・Iターン大歓迎」されているような気分にさせてくれます。

 いまだ既存住民の住宅再建すらままならず、漁師さん自身も仮設住宅での暮らしを余儀なくされている今の被災地ではかなり難しいのでしょうが、漁業の将来を考えると、他県からの新規就業を、子供の教育・医療面なども含めて「町ぐるみで大歓迎」する仕組みの構築は大きな課題だと思います。


 最新の求人情報は、くれぐれも、全国漁業就業者確保育成センターのHPでご確認ください。