神戸新聞「阪神・淡路大震災20年 こころの復興とは」(6)

 神戸新聞の連載記事です。
 「阪神・淡路大震災後、被災者の心はどのような軌跡をたどったのか。震災を機に広まった『心のケア』は成熟したのか。20年の歩みを追った。」
こちらです。


 震災20年 次代へ 第7部 こころの復興とは (6)
子ども 安心感が踏み出す力に
 右手の震えが止まらない。左手で必死に押さえ込む。その症状は、1日に何回も起きた。
 「右手はずっと、憎い手だった」。西宮市の富田めぐみ(35)は言う。
 阪神・淡路大震災は中学3年のとき。大好きな祖母=当時(72)=と神戸市東灘区のアパートで暮らしていた。大きな揺れの直後、祖母は寝ていためぐみに覆いかぶさった。めぐみも右手を伸ばし、祖母の後頭部を抱えるようにした。そこに天井が落ちてきた。
 苦しむ祖母に、めぐみは「隙間をつくって、ちょっとでも楽にしてあげたい」と考えた。右手を引き抜いた瞬間、上からの圧力がドンとかかった。
 「私が殺した」。家族を心配させまいと、生き埋めになっていた約4時間のことは一切話さなかった。そして、右手が震えるようになった。
 祖母のうなり声が耳元によみがえった。高校時代には過食や拒食もあった。気持ちが爆発しそうになると部屋にこもり、ノートやチラシの裏に思いを書き続けた。
 転機は、震災から約10年後の結婚と、3人の子どもの誕生だった。「おばあちゃんが守ってくれたから、命がつながった」。そう思えるようになり、右手の震えは次第に消えていった。
 
 心に傷を受けた子どもはどれぐらいいたのか。
 兵庫県教育委員会は1996年度から小中学校で「心の健康について配慮が必要な児童生徒数」を集計した。14年間でのピークは98年度の4106人。落ち着きのなさ、頭痛や腹痛などの影響がみられた。
 そこで、国の特例措置として被災地の小中学校に配置されたのが、教育復興担当教員(心のケア担当教員)だった。乳児期に被災した子どもが中学を卒業する2009年度まで、延べ1671人がその役割を担った。
 07年度から3年間、神戸市西区の井吹台中で担当教員だった柚木晃(62)は、ある母親の訴えを覚えている。
 「震災で店がつぶれ、再建もうまくいかず、人生が変わってしまった。子どもに負担をかけているのがつらい」
 年月がたつにつれ、震災の直接的影響は見えにくくなったが、経済状況や家族関係の変化が子どもに影響を与えていると感じた。柚木が心掛けたのは「とにかくその子の言うことをちゃんと聞く。放っておかない」ということだった。
 児童精神科医の清水將之(80)=神戸市東灘区=は、担当教員の取り組みを評価する。
 「自分を見てくれていて、いざとなったら助けてもらえる。その安心感が、子どもにとって一歩を踏み出す力になる」
 県教委は00年、震災・学校支援チーム「EARTH」を創設した。毎年、約150人の教職員がメンバーとなり、国内外の被災地などで心のケアや防災教育の経験を伝える。
 東日本大震災被災地でも、研修会や教員への助言を続ける。兵庫の20年の積み重ねが、新たな被災地で子どものために生かされている。=敬称略=(中島摩子)
 (出所) 神戸新聞2014年12月25日付 朝刊1面

 


[参考]馬殿禮子(兵庫県臨床心理士会副会長)「検証テーマ『被災児童生徒の心のケア』」兵庫県『復興10年総括検証・提言報告 第3編 分野別検証【2】社会・文化分野』100-102頁
 「兵庫県教育委員会は、震災による児童生徒の心身に及ぼす影響を把握するために、平成8[1996]年度より『阪神・淡路大震災の影響により心の健康について教育的配慮を必要とする児童生徒の状況等に関する調査』を実施してきた。
 教育的配慮を必要とする児童・生徒(要配慮児童・生徒)とは、阪神・淡路大震災被災し、次の症状や反応を示す児童生徒である。
 ①できていたことができないなどの退行反応
 ②頭痛や腹痛、食欲不振、寝つきが悪いなどの生理的反応
 ③落ち着きがない、攻撃的になる、震災について繰り返し話すなどの情緒的・行動的反応」(同書、100頁)


 「震災後9年経過してもなお、1,000 名以上の児童生徒が震災による影響を受けていることは、憂慮すべきことである」(同上)。


 「震災の恐怖ストレスの占める割合は、平成8年度は46%であったのに対して、平成16年度には29.9%であり、経年とともにほぼ減少傾向にある。一方、経済環境の変化の要因の占める割合は、平成8・9年度とほぼ15%であったのが、平成16年度では37.1%と平成10 年度以降増加しているのがわかる。家族友人関係の変化も同様の傾向がみられる。また、住宅環境の要因については、平成10・11 年度と減少傾向にあったのが、その後増加傾向に転じている。」
 (出所)兵庫県復興10年総括検証・提言データベース



 岩手日報の論説「震災遺児のケア 寄り添う人材足りない」(12月24日)も参照。こちらです。
 ドキッとされられる事実が描かれていました。